知っている人は知っているかと思いますが、とり・みきには事件や事故や災害が起きると、局またぎでそれを録画しつつ経過を追っていくというたいへん不謹慎な趣味があります。起きている出来事そのものへの関心と同時に、そういうときは伝える側もあわてているので、ふだんは隠しているテレビという仕組みの本質や裏側が見えやすい、それが言葉は不適当ですが面白い。


これはまあ特異な例としても、例えば特定のタレントの熱烈なファンなら、彼女もしくは彼がテレビに映っている映像はCMも含めコンプリートで録画保存したいと思うことは珍しくないでしょう。自分も近いことはやっていたのでよくわかる。楽しくも厳しいいばらの道。修業です。あとで「アレにちょっとだけ取材映像が出ていたよ」と教えられ何度地団駄踏んだことか。


なので、1週間丸ごと地上波8局の全番組を録画し続ける機械があるという話を聞いた親切な人が「これは真っ先にあいつに教えてあげなくてはいけない!」と思ったとしても、それは無理からぬことといえる。そんなわけで先日代々木にあるPTPさんにうかがってSPIDERの実機を見てきましたよ。


そのスペックについては細かく記してるとスペースを喰うので上のリンク先をご参照ください。さてしかし、ご注進してくれた親切な人達には悪いけれども、実をいうと最初はそれほど食指は動かなかったんです。なんでかというと、あまりにも便利すぎるから。


先に修業と書きました。その心理はわかりづらいかもしれませんが、自分的にはそういう作業はテレビ局と1ユーザとの勝負みたいな感覚がある。私の話を読んだり聞いたりした人からは「地上波局の数だけビデオが稼働してるんですか」とよく訊かれるのですが、そんなわけはない。最初のニュー速テロップや放送事故などハプニングの時点でビデオの前に居合わせるも、いつ流れるかわからないCMを狙って早朝から待機するのも、絶妙のタイミングでチャンネルを変えるのも、すべてこれテレビとの「勝負」なのです。


常時全録機には、そのモチベーションがない。いつのまにか手段と目的が逆転してないかといわれそうですが、誰でも簡単にできることはあまり面白くないのです。負けないゲームはつまらない。事実、既に世はネット時代となり、自分が見逃した、あるいは録り逃がした決定的瞬間も、どこかの誰かは必ず録っていて、それだけなら以前は赤の他人は観れなかったのが、今はYouTubeやニコニコ動画にすぐUPされ視聴できる。テレビ局へのツッコミも2ちゃんその他の場所でリアルタイムに全国規模で常時進行している。


そうなるとわざわざ自分がやる必要はない、という気になるもので、冒頭のような臨戦態勢になる機会は、このところめっきり減っていたのです。テレビの録画もキーワードさえ入れておけば勝手に関連番組を録ってくれるような時代なので、ますます気分は受動的になっている。で、SPIDERはその受動的気分の究極のような先入観があったのでした。


ところがPTPの有吉さんとディジティミニミ竹中さんにデモられてるうち、というか目の前のSPIDERの画面や操作法を見ているうち、だんだん考えが変わってきました。SPIDERではとりあえず全録画した1週間分の番組、のみならずCMも含めて、タレント名その他色んなキーワードで検索や並べ替え、そして跳び観が出来るのですが、この局間だけでなく時間的なザッピングの課程で、思いもよらぬ映像情報がリンクしていくのが面白い。最初の検索からどんどん派生していって違う番組にたどり着いたりする。


そうしてその間に(これは自分、もしくは自分のような仕事特有の感覚かもしれませんが)妄想やアイデアがどんどん膨らんでいく。かつてネットサーフィンという言葉がまだ新鮮だったころに覚えた興奮を、久々に、しかもメディアそれ自体はけっして新しくないテレビという素材で感じてしまった。


さらにそれより昔「百科事典」に関して、そういう思考のテイクオフ装置として使うことがある、という一文を書いたことがあります(『とり・みきの大雑貨事典』)。事典というのは始まりも終わりもない。ある事項を読んでそこに出てくる別の言葉に興味が移ると、関連事項を探して違うページへ飛び、そこでまた別の事柄に興味を奪われジャンプ&ワープの繰り返し。やがては本の迷宮に迷い込み、思わぬ知識を仕入れたり、複数の材料が絡み合って新たな妄想やアイデアが生まれたりする。現在のgoogleやWikipediaが面白いのも、検索やリファレンス以外にそういう部分があるからでしょう。


SPIDERはそういうアイデア喚起装置としての使い方が出来るな、と思いました。しかも番組の冒頭ではなく、取材VTR開始時点、検索したいタレントの登場時点など、コーナー開始時点にダイレクトに飛べるので効率がいい。これは現在録画予約で使われているiEPGの情報だけでは無理で、100人近いスタッフが番組を視聴して人的作業で打ち込んでいると有吉さんからうかがってびっくり(なので随時精度が高く更新されるのだとか)。


さらにはユーザによるオススメコメントなどもUPすることが出来る。そこでのキーワードやコメントを参考にまた別の番組の特定のパートに飛んでいく、という具合。一週間以前の録画は自動的に消えていきますが、そうやって見つけた取っておきたい部分はHDに保存しておくことが出来る。


これは「番組」をひとつの「作品」として出来るだけ高画質・高音質で録画保存する、という方向とは正反対のベクトルですね。送り手の思惑とは別にテレビ放送を「素材」としてユーザが新しい遊び方や利用法を見つけるものであり、そういう意味では当方の事件事故報道追っかけ録画と立ち位置は同じです。先入観とは違い、むしろ極めて能動的に、テレビと対等に向き合える。つまり「勝負」の感覚なんです。番組の作り手送り手には申しわけないが、ある意味もっとも健全なテレビとのつきあい方かもしれません。


いや瀕死のテレビ業界にとっても生き残りのヒントがここにはありそうな気がする。もちろん、ドキュメンタリーからお笑いまで、高画質・高音質でノーカット保存したい番組もありますよ。数は少ないけど。そういう番組の「発見」にもSPIDERは役立ちそうな気がするのです(事実ここ数年テレビをまったく観ていなかった竹中さんも、また観るようになったのだとか)。


単なる「代理店や芸能事務所が商品やタレントの露出チェックに使うのに便利な機械」(それだけでもけっこう需要がありそうだけど)でなく、テレビを使った検索マシンとして個人ユースでもまだまだ色んな楽しみ方はありそうな気がしました。


最後に書いておきたいのがリモコンとガイド画面のシンプルさと操作性の簡便さ、そして起ち上がりの早さです。やれることを絞って、ものすごく使いやすく直感的に出来ている。ウチにあるDVD/ハードディスク録画機の1/20くらいしかボタンがない。これもたいへん気に入りました。